日本の中心から美容の力を!~Part3~
給与もキャリアアップも20年以上前の“働き方改革”が今活きている
――30年経営を続けられ、勤め上げるスタッフさんがいらっしゃるのは、給与や勤務管理などの処遇改善にも取り組まれたのではないかと思います。その、働き方改革の具体的な取り組みを教えてください。
まずは給与制度の改善ですね。一般企業のような査定制を導入しました。売上別のランクを設けて、その期に売り上げをがんばったら次のランクに行ける仕組みです。当時、首都圏の多店舗サロンさんが導入していると聞いてすぐに学んで取りいれたので、長野県では一番早かったと思います。やることをやったら、きちんとお給料に反映される制度。今も、県内では給与や報酬の処遇は一番よいと思います。
次に「オーナー制度」です。のれん分けFC(フランチャイズ)の仕組みを整備して、自分の店を持ちたい夢のあるスタッフのキャリアを用意しました。今、5名のオーナーが7店舗経営しています。当時は僕がやっていたお店を店長に譲って独立してもらう感じでしたね。スタッフもお客さまもそのまま引き継いでいました。
これは20年前の取り組みなので、今はやり方を変えて行く必要を感じていますけれど……。
――どのように変化の必要性を感じているのですか?
20年前、オーナー制度を取り入れたときは15~20坪くらいの店舗が主流でしたけど、その後どんどんお店の規模を大きくして、資金力と機動力で稼ぐ店舗運営が主流になってきてしまいました。そのお店をそのまま譲るメリットよりリスクの方が大きい時代になってきたので、今はそのルールはやめています。
――時代に合わせてルールも柔軟に変化されるわけですね。
そうですね。資金と規模で圧倒的に他店を凌駕できた時代から、今はSNSだったり予約サイトだったり、お金や人をたくさん導入したからといって結果が返ってくる時代ではなくなってきていますよね。今は大きい店の人も、小さいお店の人もみんなにチャンスがある時代ともいえるんですよ、ポジティブにいえば。
――これまでと時代の流れが大きく変わる潮目なのかもしれないですね。その中で、今は直接雇用、終身雇用を打ち出しておられるというわけですね。
そうですね。あくまで「一生好きな仕事で生きていける職場づくり」に沿っていろんな仕組みを整えているので、直接雇用・終身雇用にこだわる軸は変わりません。安心して好きなものに打ち込める環境をつくるのがMUGEN GROUPのコンセプトです。
終身雇用のための安心を支える仕組み
――給与の他、勤務に関する取組みについてお聞きします。MUGEN GROUPさんは、正社員やパートタイム勤務のほか、さまざまな働き方を準備されていますよね。
パート採用も30年前、2店舗のときから行っています。美容が好きだけど、子育てなど家庭の事情でフルタイムで働けない人は大勢いますし、そんな人も一生美容に携われる美容室にしたいと思いました。勤務としては土日休みの週休2日、9〜17時の勤務です。
――スタイリストとして勤務しているのですか?
フロントさんやアイリストさん、アシスタントの方もいますよ。もちろんスタイリスト、技術者もおりまして、パートさんに特化したスクールもあります。
――パートスクールをお持ちなのはとてもめずらしいですね。どのようなことをレクチャーされるのですか?
パート採用に応募してくださる美容師さんは、みな一定のキャリアのブランクがあることが多いです。もちろん、産休・育休後に育児に重きを置きながら美容師を続けたい社員がパートタイム勤務にキャリアを変更することもありますが、お子さんが小学校を卒業するなど、子育てがひと段落してから「もう一度美容師をやりたい」と思う方がいますよね。そんな方に、現場向けの技術をきっちり教え直すスクールです。長い人では、10年以上ブランクがある可能性がありますもんね。
――「現場向けの技術」とはどんなものですか?
現場向けとは、サロンワークで必ず結果に繋がる技術です。美容師さんにとって単に技術というと、カットやカラーの仕方を指すことが多いと思います。ですが僕が思うに、技術とはこれだけのことではありません。
サロンワーク向けの技術とは、コンピュータに例えるとハードとソフト両方の充実が必要です。カットのベーシックができている、しっかりワインディングができる、ねらった色味をヘアカラーで表現できるというような技術は「ハード」。骨格ですね。
一方、ソフトとはカウンセリングです。会話をする力、気を使うとか、そういったことをしっかり身につけてもらい、どんな雇用形態の人でも現場で活躍できるように導いていきます。
――創業以来、教育の文化を大切にし、それをスタリストデビューしてキャリアアップしていくところまで仕組み化・整備してきたからこそ、蓄積されたノウハウなんですね。
そうですね。僕自身が、大好きな長野県から東京に修行に行ったのは、間違いない教育を受けたいと思ったからでした。当時は教育が仕組み化されている美容室がなかったのでね。
教育と処遇改善、30年前に目指したことの結果が、今出てきていると思います。
せっかく、長野から世界にも発信していける時代だから
――自社開催のヘアショーを14回続けて来られているのも特徴ですよね。(代表ブログ 参照)これは、どのような経緯で始められたのですか?
15年ほど前、東京や大都市を中心にディーラーさん主催のヘアショーがたくさん開催されていた時期がありましたよね。美容学校の先生にお会いすると、長野県内の学生はそういうものを求めていると聞きました。実際に観てみたいけれど、東京にも行けないし、長野県でもなかなか頻繁に開催されませんでしたし。
それならば弊社で、長野県内の美容師の卵のみなさんに、それを体験する場を提供しようと思ったのが始まりです。15年間のうちに1度だけお休みしましたが、やはり若手からベテランまで全員で夢中になって練習すると、成長します。大変だったり、ぶつかったりすることもあるけれど、そこから学ぶことも多いですしね。
SNSや動画の時代だからこそ、Face to Faceで喜びを共有する美容の仕事は楽しいんです。共に時間を過ごすということは、命を分かち合っているということ。
スタッフ同士が苦しみや喜びを分かち合う時間、ご覧いただくお客さまと僕らが感動を分かち合う時間。そんな美容ならではの感動共有の場だと思うので、ヘアショーはこれからも続けていきたいです。
――美容師になりたい人にとってはプロの技術やデザインを体感する機会ですし、所属するスタッフさんにとっても、東京や大都市に引けを取らない本格的なステージをつくり上げる経験は糧になりそうですね。
そうだといいなと思います。今は高校生や美容学生を無料で招待していて、今年は合わせて約100名が来場してくれました。
僕自身、はじめは教育を受けたいと思って東京に行った若者の1人でした。だから、若い人たちがそれぞれ夢や大志を抱いて東京に行きたいと思う気持ちを止めることはできないと知っています。
ですが先程も少しお話したように、 資金や人員をたくさん持っているサロンが集客に有利でなくなってきたし、都心のサロンだけが注目される時代でもない。
だから、今は地方こそたくさんのチャンスがある時代だと思うんです。地方サロンからこそスターが生まれる時代だし、地方サロンでも終身雇用などの働き方改革で、全国のお手本になれる時代。
――最後に、長野県内の美容師を志す人たちにメッセージをお願いします。
僕がお店をオープンした30年前とは、働き方や仕事の価値、人生観など、世論は大きく変わったなと思うところはあります。
そんな時代でも、美容師の仕事の楽しさの本質は変わらないと思う。お客さまと向き合って喜んでいただく、仲間と共に悩み共に成長する……、それはこれまでもこれからも変わらない美容師の楽しさです。
それが、今全国に等しくチャンスがある時代。
「大好きな美容を一生の仕事にできる美容室」――そのためにできることはどんどんチャレンジします。共にチャレンジし、長野から日本の美容業界を一緒に盛り上げてくれる仲間に出会いたいなと思います。